多自由度コロキウム

第九回(12/17)

非平衡系でのロングタイムテール

12/17(月) 13時30〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 大槻 道夫氏(京都大学基礎物理学研究所)
  • 要旨

 通常の平衡状態にある流体では、系の次元をDとした場合、速度等の物理量の 時間相関関数が時間tの-D/2乗で減衰するロングタイムテールが存在する。この 平衡状態のロングタイムテールに関しては、数値計算、様々な解析法によって、 理解が非常に進んでいる。

 だが、剪断や粒子間衝突の際の散逸によって、系が非平衡状態になった場合、 そのロングタイムテールのベキ指数等がどのように変化するかは、それほど自明 なことではない。(例えば、剪断の加わった粉体系で実現される非平衡定常状態 では、時間相関関数がtの-3D/2乗で減衰するロングタイムテールが予測されて いる。)

 そこで我々は、このような非平衡状態におけるロングタイムテールに関する理 解を深めるために、外場の加わっていない状態の粉体系[1]、剪断の加わった粒 子系(通常の流体と粉体の両方を含む)[2]での物理量の時間相関関数の長時間 での振る舞いを、解析と数値計算の両面から調べてみた。

  • 参考文献
    • [1] H. Hayakawa and M. Otsuki, arXiv:0706.3956
    • [2] M. Otsuki and H. Hayakawa, arXiv:0711.1421

第八回(11/26)

反応拡散系と結合した対流・自発運動

11/26(月) 15時00〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 北畑 裕之 氏 (京都大学 大学院理学研究科)
  • 要旨

 非平衡開放系における時空間自己組織化のメカニズムを物理的に明らかにするために、 さまざまな研究が行われてきた。その一つの枠組みとして反応拡散系が広く用いられる。 これは、考えている系を小さな領域に分割し、そこでの局所的な時間変化と近傍の領域との拡散的相互作用を考えることにより、系の時間発展を記述するものであり、反応拡散系 の枠組みにより、さまざまなパターン形成のメカニズムが明らかになってきた。また、その実験モデル系として、Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応が盛んに研究されてきた。 しかしながら、自然界にはこのような反応拡散系の枠組みだけでは表しきれない現象が 数多く存在する。その一つとしてまず考えうるのは、媒質自体が流れる「移流」である。 細かに分割した領域にある物質すべてが移動することは、反応拡散系の枠組みでは記述 できない。今回、BZ反応のパターン形成と結合して現れる対流現象や、液滴の自発的運動 を見出したので、その実験結果ならびにメカニズムに関して議論する。また、BZ反応以外 の系における自発的運動や、BZ反応の挙動に与える境界の影響などについても触れる予定 である。

第七回(10/15)

システム生物学の現状とシステム進化生物学への展開

10/15(月) 13時30〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 荻島創一 氏 (東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 要旨

ヒトゲノムをはじめとした各生物種のゲノムが解読が進み、1000$ ゲノム時代を目前にひかえ、トランスクリプトーム、インタラクトー ムなどの網羅的な分子生物情報が蓄積するなか、生命現象をシステムと して捉えることを目指すシステム生物学(Systems Biology)とい う新しい分野が急速に進展している。本発表では、システム生物学の最 新動向をレビューし、我々が提唱するシステム生物学に進化的視点も取 り入れた、進化生物学(Systems Evolutionary Biology)の概念を 提示し、その概念に基づく我々の研究をいくつかご紹介する。ここで、 システム進化生物学とは、生命の進化を個々の遺伝子ではなく、システ ムとして捉える見方をするもので、動態解析により分子・細胞レベルの 時間スケールでの動態を、進化解析により個体群レベルの時間スケール での動態を解析し、生命システムに共通するグランドデザインを明らか にしようというものである。この生命システムのグランドデザインを明 らかにすることは、昨今、急速に進展している合成生物学による生命シ ステム工学の理論的な基礎を与えるものとなる。具体的には、動態解析 として、網羅的な遺伝子発現データの転写調節ネットワークとしての解 析や直接的な転写ターゲット遺伝子の同定についてご紹介したい。ま た、進化解析として、網羅的だが静的なタンパク質間相互作用ネット ワークの進化解析と、部分的だが時間発展的な初期胚発生のHox シグナル伝達系の進化解析についてご紹介したい。

第六回(7/20)

Nose-Hoover法のエルゴード性と定温分子動力学法

7/20(金) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 渡辺宙志 氏 (名古屋大学情報科学研究科)
  • 要旨

Nose-Hoover法は指定温度のカノニカル分布を得る運動方程式を 与える処方箋であるが、扱う系によってはエルゴード性を失うことが 知られている。そこで、なぜ、どのような時にNose-Hoover法が エルゴード性を失うのかを調べた。さらにNose-Hoover法を一般化することで、 一変数を追加する方法では常にエルゴード性を失う可能性があることが分かった。 また、温度を制御する分子動力学法の物理的な解釈についても議論したい。

  • 参考文献
    • H. Watanabe and H. Kobayashi, Phys. Rev. E, 75, 040102(R), (2007)

第五回(7/6)

ホロノミック量子計算とゲージ理論

7/6(金) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 谷村省吾 氏 (京都大学大学院情報学研究科)
  • 要旨

量子計算機は,量子系の状態のユニタリー変換を演算プロセスとして利用する計算機であり, 量子状態の重ね合わせを用いることによってある種の並列処理を行うことができる. 量子計算の物理的実現方法についてはさまざまな提案があり, ホロノミック量子計算というのもその一つの方法である. Berryの位相を非可換群に拡張したものをWilczek-Zeeのホロノミーと言うが, ホロノミーを使ってユニタリー変換を作ろうというのがホロノミック量子計算のアイディアである. 所望のユニタリー変換を作るために量子系の制御の仕方を決めなければならないが, この制御を最適化しようという問題は, ゲージ理論の等ホロノミー問題に帰着される. ある種の理想的なシステムの場合について,等ホロノミー問題を厳密かつあらわに解くことができた. その結果について紹介したい. この報告は林大輔氏(京大修了),中原幹夫氏(近畿大)との共同研究にもとづく.

第四回(6/29)

1学生の目から見た生命情報学

6/29(金) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 石渡 龍輔 氏 (東京医科歯科大学大学院)
  • 要旨

現在の生命情報学分野は,大別すればバイオインフォマティクス とシステムバイオロジーという分野になる。 今回のセミナーでは,今までこれらの分野において私が修士の間 研究してきたことを紹介させて頂く。 バイオインフォマティクスは「タンパク質のドメインの生物種間比較」 と,「オルタナティブスプライシング」について, システムバイオロジーは「アポトーシス誘導因子の放出モデリング」に ついて話させて頂きたい。

また,システムバイオロジーを研究する上で,必要不可欠な 反応速度式への疑問についても少しだけ触れさせて頂きたい。

第三回(6/1)

最適速度模型を中心とした交通流モデルとその数理

6/1(金) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 金井 政宏 氏 (東京大学大学院数理科学研究科)
  • 要旨

現在の交通流研究において,最適速度模型(OVモデル)は交通流の標準的モデル となっている.今回のセミナーでは,OVモデルに関連のある交通流の確率モデル (Stochastic OV)および時間遅れ微分方程式(delay OV)の現象論的研究と数理的 研究について紹介したい.  SOVモデルはOVモデルの確率版にあたり,興味深い相転移現象を示す[1].今 回はOVモデルのクラスター解をヒントに解析を行った結果を示す[2].また,反応 速度パラメータの両極限での厳密解についても触れる[3,4].  dOVモデルについては可積分系における広田の方法を適用して厳密解を得る方法を 紹介する.この方法により,既に得られている楕円解とは別に新しい衝撃波解が得ら れる[5].

  • 参考文献

[1] M. Kanai, K. Nishinari and T. Tokihiro, Phys. Rev. E 72 (2005) 035102.
[2] M. Kanai, K. Nishinari and T. Tokihiro, J. Phys. A 39 (2006) 2921.
[3] M. Kanai, K. Nishinari and T. Tokihiro, J. Phys. A 39 (2006) 9071.
[4] M. Kanai, cond-mat/0701190
[5] Y. Tutiya and M. Kanai, nlin/0701055

第二回(5/11)

2次元Frenkel-Kontorovaモデルによる摩擦と超潤滑解析

5/11(金) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 大島 吉雄 氏 (名大情科)
  • 要旨

摩擦現象は日常的に現れるが、その発生機構は力学的条件、材料の諸性質、化学的性質、熱環境などの複雑な要因に影響される。これら全ての要因を考慮し解析することは困難であることから摩擦の要因を原子間相互作用に特定し、その原子論的起源を解明することは重要な課題とされている。これまでに、摩擦の原子論モデルは主に1次元モデルで調べられてきた。一般的に金属結合など強い相互作用が働く現実系では、個々の原子は断熱運動を条件とし摩擦ゼロの状態である超潤滑状態が現れる可能性が分かっている。しかし、1次元系による解析では固体間の強い相互作用によって不安定領域が現れると原子は非断熱運動をすることが分かった[1]。

そこで、より現実系に近いミュレーション解析が重要であることから、本研究では2次元摩擦モデルの理論モデルを構築し、計算機シミュレーションによる超潤滑安定性を検証した。

参考文献:[1] K.Shinjo and M.Hirano,Surf.Sci.283,473(1993).

第一回(4/6)

非平衡ランジュバン熱浴+ハミルトン粒子系

4/6(金) 16時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 林 久美子氏 (早大理工)
  • 要旨

周期ポテンシャル中を外力に駆動されるブラウン粒子の運動を考 える。この非平衡ランジュバン系に周期ポテンシャルの周期よりも 空間変調のゆっくりしたポテンシャルをかけて、系を粗視化すると、 粗視化された階層で (1) フォッカープランク方程式の温度パラメータ (2)(動座標系でみたとき)カノニカル分布の温度パラメータ は、非平衡ランジュバン系のFDT violation factor(有効温度) に一致することが分かっている [1]。

この有効温度は「温度らしい量」と言えるだろうか? 非平衡ランジュ バン系とハミルトン粒子系を接触した時、ハミルトン粒子系の運動 エネルギーは有効温度に一致するか? FDT violation factorとして の有効温度はエネルギー的なやりとりで捕まる量か? 

2次元ハミルトン粒子系の上下にランジュバン熱浴を付け、片方の 熱浴を非平衡状態においた時、有効温度と環境の温度の値の差を 利用して熱伝導系をデザインすることが可能か?

などを議論したい。

参考文献: [1] K. Hayashi and S. Sasa, Phys. Rev. E 69, 066119 (2004).

K. H. acknowledges M. Takano for discussions on thermal conduction and an effective temperature.


名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻 多自由度システム情報論講座