多自由度コロキウム

第一回(5/24)

光と揺らぎによるナノ複合体の動的過程制御の理論

5/24(月) 15時00分〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 飯田琢也氏(大阪府立大学)
  • 要旨

自己無撞着に決定された光誘起力と熱揺らぎによる揺動力を駆動力とするランジュバン方程式に基づくナノダイナミクスの計算手法の開発、光誘起力を含む非線形運動方程式に基づく動的過程制御の理論研究について講演する。これらの理論により得られた原理をベースに、光と揺らぎによるナノ物質の動的過程制御に基づくナノ複合材料製造技術、光操作技術、極微計測技術などに関する新技術群である「光誘起力ナノエンジニアリング」の創成を目指した取り組みについても紹介する。

第二回(6/7)

The infection pathway of virus, anomalous diffusion, and fluctuations

6/7(月) 17時00分〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 一刀祐一氏(愛知工業大学基礎教育センター助教)
  • 要旨

We study the infection pathway of virus in cytoplasm of a living cell from the viewpoint of diffusion theory. The cytoplasm plays a role of a medium for stochastic motion of the virus contained in the endosome as well as the free virus. It is experimentally known that the exponent of anomalous diffusion fluctuates in localized areas of the cytoplasm. Here, generalizing fractional kinetic theory, we describe such fluctuations in terms of the exponent locally distributed over the cytoplasm, and we present a theoretical proposition for its statistical form.

第三回(7/12)

ホヤを通して試みる、生き物の仕組みと方法論の探求

7/12(月) 15時00分〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 松前ひろみ氏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 要旨

生物を研究する上で、多様なアプローチが存在する。私は、バイオインフォマティクスやシステムバイオロジーという計算機を用いた立場から、主にホヤという海洋生物を通して、生物学を串刺しにする方法論を模索している。バイオインフォマティクスからのアプローチとして、修士で行った体内時計の研究、現在行っているマイクロアレイの開発についてお話しする。また、現在私が興味を持っており将来的に取り組んでみたいホヤの現象の中で、ダイナミクスとして捉えることのできる現象(光刺激応答と生殖、心臓の拍動リズム、個体間-群体内の同期現象など)について解説すると共に、理論的なアプローチについても議論できればと考えている。

第四回(7/30)

宇宙の初期ゆらぎとエンタングルメント

7/30(金) 16時30分〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 大隈雄司氏(名古屋大学理学部)
  • 要旨

我々の宇宙はその初期において、加速的な膨張、いわゆるインフレーションを起こしたと考えられている。加速膨張する宇宙の中では、場の量子効果により、ガウス統計に従うスケール不変なエネルギー密度ゆらぎが発生することが知られている。現在の宇宙の大規模構造は、ガウス統計に従うスケール不変な密度ゆらぎが重力の効果で増幅されることによって形成されると考えられており、その初期条件を第1原理から予言できることが、インフレーション理論の一つの根拠となっている。インフレーションシナリオが予言する初期ゆらぎは量子的な性質を持っていると考えられる。一方構造形成論においては、初期ゆらぎは古典的な確率変数として扱われるので、量子的な性質は持っていない。したがって、何らかの機構により、初期ゆらぎの量子的性質は消えなければならない。我々は量子系が持つ古典系にはない性質として、量子もつれ、いわゆるエンタングルメントに注目し、ゆらぎの持つエンタングルメントがなくなる条件について調べている(Y. Nambu, YO, 2008)。本発表では、de Sitter時空上のスカラー場、およびそれと結合する2つのモノポール測定器を考え、2つのモノポール測定器の間のエンタングルメントから場のエンタングルメントを読み取る試みについて紹介する。

第五回(8/20)

Diversifying dynamics and their universality

8/20(金) 15時00分〜 (2時間程を予定)

  • 講演者 伊藤伸泰氏(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻)
  • 要旨

Ecological system is complex: a wide variety of interacting species consist each ecosystem. It is dynamically organized and maintained in evolutional time scale. It is a challenge to clarify the essence why ecoevolution could achieve such complex self-organization. The answer will be simple and universal, because there are wide variety of ecosystems on the earth, and there should have been more variety in past. Such variety will not be realized without some simple universal mechanism. Models of ecoevolution dynamics are compared to reach the universal feature\cite{a,b}, and it is found that a skew profile in life-time distribution function of species is the one. After a study of the simplest model, in an Ising sense, a random walk in a number-of-species space with so- called the “Red-Queen Hypothesis” is proposed and the skew profile turns out to be due to a stretched exponential function with exponent 1/ 2\cite{c}. Such stretched exponential profile well-explains not only fossil data, but also some economical data.

a: Y. Murase, T. Shimada, N. Ito and P. A. Rikvold, J. Theor. Biol. vol.264, p.663 (2010), "Random walk in genome space: A key ingredient of intermittent dynamics of community assembly on evolutionary time scales."

b: Y. Murase, T. Shimada, N. Ito and P. A. Rikvold, Phys. Rev. E vol.81, 041908 (2010). "Effects of demographic stochasticity on biological community assembly on evolutionary time scales."

c: Y. Murase, T. Shimada and N. Ito, New Journal of Physics vol.12 (2010) 063021, "A simple model for skewed species-lifetime distributions."

第六回(8/23)

計数統計における幾何学的位相について

8/23(月) 15時00分〜 (2時間程を予定)

  • 講演者 大久保潤氏(京都大学大学院情報学研究科)
  • 要旨

ある確率過程において,状態の変化がマスター方程式により記述されるもの とする.このとき,ある特定の遷移が生じた回数の統計性を計算するための 枠組みは計数統計とも呼ばれ,非平衡系における研究に有用であることが期 待されている.特に,確率過程を記述する遷移行列が時間に依存する場合に, 計数統計の枠組みにおいてBerry位相やAharonov-Anandan位相といった幾何 学的位相の数理的枠組みを利用できることがわかっている.本講演では,周 期的,および非周期的な幾何学的位相について,最近の研究成果をもとにし て紹介する.

第七回(10/25)

動的事象の臨界揺らぎに関する理論

10/25(月) 14時00分〜(2時間程度を予定)

  • 講演者 岩田真実氏 (大阪大学)
  • 要旨

ガラス転移は、液体を冷却したときに、多数の粒子がお互いに邪魔をしあって全体として 動けなくなってしまう転移である。このとき、緩和時間程度の間に粒子が動いた変位に 着目すると、臨界的振る舞いが現れる。 臨界的な振る舞いがあるということは、分類の視点から普遍的な構造を取り出すことが できるかもしれない。そこで、私たちは、p体球スピン模型に対するモード結合方程式、 ジャミング転移に関係するあるパーコレーション模型の分岐構造が、サドルノード分岐の 仲間であることを明らか にしてきた。 さらに、この分岐点近傍の揺らぎの理論的な解析をすることで、臨界揺らぎの起源が マー ジナルサドルを通過する時間という秩序変数の揺らぎの発散にあることを明らかにし、 具体的に臨界指数を計算した。本セミ ナーでは、以上について、研究の動機、問題設定、 アイデアの核心、および得られた結果について紹介したい。

第八回(11/15)

変形を伴う自己推進粒子のダイナミクス

11/15(月) 15時00分〜(2時間程度を予定)

  • 講演者 平岩徹也氏 (京都大学)
  • 要旨

自発的に推進する粒子のダイナミクスは、非平衡開放系の分野において 従来から関心が持たれているテーマである。特に近年では、変形を伴う自己推進粒子の ダイナミクスの理論研究が行われてきている。我々のグループの先行研究[1]では、 2次の変形(楕円変形)を伴いつつ粒子の重心運動が自発的に生じる場合のダイナミクスを、 空間2次元での対称性の議論を元にしたモデルに基づいて考察している。 本セミナーでは、その先行研究の説明[1]、及びその先行研究を基に (1)自発的に変形が起こり、それが重心運動が引き起こす場合[2]、 (2)3次の変形まで取り入れた場合[2]、 (3)空間3次元の場合[3]、 に拡張した結果を紹介させていただきたい。 また、反応拡散系のドメイン構造の自己推進運動を上記[1]の理論で解析する方法[4]や、 変形を伴う自己推進粒子の多体系のダイナミクス[5]に関しても紹介したい。

[1] T. Ohta and T. Ohkuma, Phys. Rev. Lett. 102, 154101 (2009).
[2] T. Hiraiwa, M. Y. Matsuo, T. Ohkuma, T. Ohta and M. Sano, Europhys.Lett. 91, 20001 (2010).
[3] T. Hiraiwa, K. Shitara and T. Ohta, Soft Matter, DOI:10.1039/C0SM00856G (in press).
[4] T. Ohta, T. Ohkuma, and K. Shitara, Phys. Rev. E 80, 056203 (2009).
[5] T. Ohkuma and T. Ohta, Chaos 20, 023101 (2010).

第九回(1/24)

鳥の群れを伝搬する波動と群れの安定性

1/24(月) 15時00分〜(2時間程度を予定)

  • 講演者 早川美徳(東北大学・教育情報基盤センター)
  • 要旨

タイトル:鳥の群れを伝搬する波動と群れの安定性 アブストラクト: ガンやハクチョウなどの大型の鳥はV字や鈎型の編隊飛行を行うことはよく知られている。 大型の群れになると、その長い紐状の構造が大きく揺らぎながら波動として伝搬している様子が、 目視でも容易に確認できる。我々は、各個体の三次元的な軌跡を推定する測定系を作成し、 波動の分散関係の導出など、こうした波動の性質と起源を定量的に理解しようと試みている。 一方、ムクドリやスズメなど、比較的小型で集群性の強い鳥は、ときに雲のようにさえ 見える大型の群れを形成し、複雑な運動を呈する。我々は、こうした群れについても解析を進めて おり、群れ構造の時空間的な緩和ダイナミスなどについて最近得た結果なども紹介しながら、 鳥が物理的な制約にどのように拘束され、かつまた、それから逃れようとしているのかについて 考えたい。


名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻 多自由度システム情報論講座