多自由度システム情報論講座

多自由度コロキウムは、講座内外の講師による学術講演・討論会です。おおよそ月に一回のペースで開催します。興味のある方の参加を歓迎します。
今年度のコロキウムは、原則として、火曜15時から、情報学研究科棟の8階セミナー室(802号室)で行います。

第1回

日本の原子物理学の父 仁科芳雄博士:環境は人を創り 人は環境を創る

要旨:
 仁科芳雄博士(1890年~1951年)は「日本の原子物理学の父」として知られる岡山県里庄町出身の偉人である。より広く「日本の現代物理学の父」と称する人も多い。仁科博士は実に様々な分野で活躍した。例えば、意外に思われるかもしれないが、大学では物理学ではなく電気工学を専攻していた[1]。また、「クライン・仁科の公式」[2]にその名を残し、湯川秀樹博士、朝永振一郎博士、坂田昌一博士らの師であるため、私はこの職に就くまで「仁科博士は理論物理学者である」と勘違いしていたが、宇宙線の測定やサイクロトロンの建設など実験でも多くの業績を残している。
 この講演では仁科博士の生涯をたどり、その人柄や数多くの偉業を紹介する。さらに仁科博士が現在に遺したものについても簡単に紹介する。

参考文献:
  1. 仁科芳雄氏の卒業論文(表紙は毛筆):Y. Nishina, "Effects of unbalanced single-phase loads on poly-phase machinery & phase balancing", 東京大学工学史料キュレーションデータベース (1918)
  2. 自由電子・光子の微分散乱断面積を与えた、いわゆるクライン・仁科の公式:O. Klein and Y. Nishina, "Über die Streuung von Strahlung durch freie Elektronen nach der neuen relativistischen Quantendynamik von Dirac", Zeitschrift für Physik 52, 853-868 (1929)
  3. 今年の7月に仁科博士の新しい伝記が出版された。2巻、全1000ページ超の大著で、内容・分量ともに仁科伝記の決定版とも言える:伊藤憲二「励起 仁科芳雄と日本の現代物理学」上巻下巻、みすず書房 (2023)
  4. 仁科会館ウェブサイト「仁科芳雄博士について」
  5. 仁科記念財団ウェブサイト「仁科芳雄デジタル記念館」

第2回

なぜデパートのエレベータは同時に来る?自己組織化現象の数値的探求

要旨:
 混雑したビルのエレベータが複数台同時に到着することは経験的に知られている。例えば、デパートのエレベータホールでも、何故ほぼ同時にエレベータが来る事に対する仮説を立てている会話を耳にすることがある。運行アルゴリズムの最適化を考える場合でも、このような自己組織化のメカニズムを理解することは重要である。そこで、同時到着のメカニズムを同期現象の視点から考察する。Poisson過程に従って各階に利用客が到着し、地階へ移動する場合の数値シミュレーションを行い、ノイズがある状況下で同期がどのように生じるかを調べた[1]。また、エレベータ間の相互作用の実質的な強さを変えるパラメータを導入し、簡潔な数理モデルで再現した[2]。同時到着に強く影響する要因を明らかにすることで、将来的に運行アルゴリズムの改善や最適化につながることが期待できる。

参考文献:
  1. Tanida, S. "Dynamic behavior of elevators under random inflow of passengers", Physical Review E (2021) (arXiv: 2012.12571)
  2. Tanida, S. "The synchronization of elevators when not all passengers will ride the first-arriving elevator", Physica A: Statistical Mechanics and its Applications, 605 (2022) (arXiv: 2203.12854)